FPが単独で行える業務は各専門分野の抽象的な領域

FP業務と各専門分野の関係

FPの対象領域は実に広く、関連する専門領域が数多くある。

そのためFP業務を行うのであれば、「関連業法」を順守しなければならない。

それらの専門領域に足を踏み入れ、その職域を侵すことがあってはならない。

抵触行為は許されず、処罰されることになる。

したがって、FP業務と各専門分野の関係を熟知しておく必要があるだろう。

まず最初に、抵触する可能性が高いと思われる、税理士法から見ていくことにしよう。

税理士法

FP業務は、包括的なプラン立案とともに、そのプランの実行支援を主要業務とする。

そのため、顧客のデータを分析した上でプランを立案する必要がある。

その段階で、税金(税制)を無視してプランニングすることはできない。

税金面を考慮しないプランは、顧客の将来を蔑ろにしてしまうことと一緒だからだ。

だが、その肝心の税金面に関しては、税務の専門家が存在する。

ということで、まず税理士の業務がどのようなものなのかを把握した上で、FP業務を提供していく必要がある。

税理士の業務

税理士法第2条1項柱書は、「税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする」と規定している。

その同項1号では、租税法令等に基づく申告等について代理もしくは代行するなどの税務代理行為、同項2号:税務書類の作成、同項3号で税務相談と定義してる。

また、税理士法第52条は、「税理士または税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないJと規定している。

したがって、この規定に抵触すると、2年以下の懲役または100万円以下の罰金を科せられる可能性がある。

税務相談について

そもそも税務代理や税務書類の作成は、税理士の専門領域だ。

そのため資格のない者がこれを行えば当然税理士法違反に問われる。

FP業務の中で特に問題が生じやすいのはこの部分だ。

つまり「業として行う税務相談」の領域だ。

冒頭でも申し上げた通り、プランニングにあたり税金に関する相談を受け、何らかの回答を必要とする場合が数多くある。

これは、税理士の専門領域である「業として行う税務相談」に抵触するおそれがあるので注意して欲しい。

なお、この相談行為は有償無償を問わない。

日本税理士会連合会の見解

「『業とする』とは、税務代理、税務書類の作成または税務相談を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、営利目的の有無ないし有償無償の別は間わないこととされており(税理士法基本通達2-1)、判例においても同様に解されている」

「『税務相談』とは、税務官公署に対する申告など、税務官公署に対してする主張もしくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準などの計算に関する事項について相談に応じることをいう(税理士法第2条第1項第3号)。さらに、防目談に応ずる』とは、具体的質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいうものであり(税理士法基本通達2-6)、単に仮定の事例に基づき計算を行うことまでは含まない。また、一般的な税法の解説なども税務相談には該当しない」ー以上日本税理士会連合会「新税理士法 三訂版」(平成20(2008)年6月改訂)より抜粋ー

ではFPの業務としてどの程度までなら許されるのだろうか?

本来であればプランニングはできる限り具体的で正確を期すべきだが、税務に関して云えば、それが色濃くなればなるほど抵触する可能性が高くなる。

したがって、FP業務においては、抽象的なタックスプランにとどめる必要がある。

具体的な納税義務にかかわる相談に応じてはいけない。

税理士との協力関係は不可欠

以上のことから、FP業務の範囲内で具体的で正確なプランニングを行うことは不可能だということがわかる。

税理士法第1条は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」

上記のように規定している。

ではどうすればいいのだろうか?

具体的には、税理士と顧間税理士契約を結び、プランニングを検討してもらうことになるだろう。

もちろん、具体的な税額計算や税務代理については当該税理士に依頼することになる。

そのことによって、真に顧客ニーズに応えることができ、FP全体のステイタス向上に貢献することにも繋がるだろう。

弁護士法

弁護士法第3条1項:「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不月反申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする」

同法第72条:「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事務に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。但し、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでな
い」

同法第77条:「第72条の規定に違反した者」は、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処する」

FPが訴訟を代理する、ということはあまり考えられないだろうが、知らず知らずのうちに法律的な事務を行ってしまっていた、ということは考えられるだろう。

第3条1項、第72条「報酬を得る目的で一般の法律事務を取り扱うことを業とすること」

具体的には上記の事柄についての抵触行為だ。

一般の法律事務とは?

それでは「一般の法律事務」に該当する行為とは、どういっただろうか?

同条項を見てみると「訴訟事件……その他一般の法律事務」と定められている。

つまり、当事者間で権利義務関係について紛争があるような事件性がある場合に限定されると解釈もできる。

しかし、事件性がなければ抵触しないといいきれうだろうか?

実は、どこまでが「法律事務」といえるのか、ということについて明確な基準は示されていない。

例えば、事件性はないが、紛争もありえる遺言状の作成指導の場合などはどうだろう。

これは法律事務に含まれると解釈されている。

つまり、「一般の法律事務」は、権利義務関係全般にわたると解釈できる。

したがって、そのプランニング自体が「一般の法律事務の取り扱い等の禁止」に違反していると解される可能性もあるということだ。

具体的に云えば、相続・事業承継の分野は、民法第4編親族・第5編相続における各条項の適用、解釈と直接かかわる問題だ。

つまり、遺言状や遺産分割、これらに関して具体的かつ的確に回答するためには法律解釈が必要であるため、法律の専門家である弁護士に任せる必要がある。

もしこれらのことをFPが単独で行った場合は、非弁護士による「一般の法律事務の取り扱い等の禁止」規定に抵触することになるだろう。

弁護士との提携

以上のことから相続・事業承継プランに限らず、その行為が弁護士法に抵触する恐れのある場合は、弁護士と顧問契約を結ぶなどして単独で行うことを避けなければならない。

また、法律上の紛争があった場合にすぐに依頼できるよう、弁護士と提携しておく必要もあるだろう。

投資助言・代理業、投資運用業との境界

これまで話してきたように、ファイナンシャル・プランニング自体が多岐の分野にわたることがわかる。

そのなかでも金融資産の運用設計は、プランニングの主要分野でもあるといえるだろう。

この領域は投資助言・代理業、投資運用業との境界問題が絡んでくる。

顧客から有価証券の投資に関する判断を求められることがあるからである。

投資助言・代理業、投資運用業の内容

投資助言業は、顧客に対して投資顧問契約に基づき、有価証券の価値等又は金融商品の価値等(デリバティブ取引を含む)の分析に基づく投資判断に関し、助言を行うものであり、代理業は投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒介を行うものですから、法律等を遵守し、投資者の保護を図ることが必要です。ー関東財務局ホームページより抜粋ー

また、金融商品取引法では、有価証券の価値等または金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に関し助言を行うことを約し、相手方がそれに対する報酬を支払うことを約する契約を「投資顧問契約」としている。(金融監督庁ホームページ参照)

上記契約に基づき助言を業とする領域が「投資助言・代理業」ということになる。

また、投資一任契約を締結し、この契約に基づいて金融商品の価値等の分析を行い金銭等の運用を行うことは「投資運用業」に該当する。

注意点▼

登録業者以外の未登録の者がこれらの業務を行った場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または両者の併科という刑罰に処せられる。

では、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断とは、どのような行為だろう。

金融商品の経済的価値を分析した結果を前提として、具体的にどのような投資をすればよいかについての判断がそれにあたる。

したがって、景気動向・企業業績など投資判断の前提となる基礎的なことを知らせるだけなら抵触しないと解釈できる。

また、金融商品取引法では有価証券の範囲を拡大し、国債、地方債、社債、株式、投資信託などに加え、信託受益権、集団投資スキーム(ファンド)の持分、各種デリバティブ取引等を規定している。それに留まらず助言の対象を金融商品に広げている点に注意しなければならない。

つまり、投資助言・代理業者、投資運用業者でない者は、有価証券などのポートフォリオのプランニングをすることはできないことになる。

登録を受けた投資助言・代理業者、投資運用業者に依頼しなければならない。

金融商品仲介業との関係

金融商品仲介業とは、金融商品取引業者などの委託を受けて、当該業者のために以下の締結の媒介を行う業務のことだ。

  1. 有価証券の売買の媒介
  2. 有価証券の売買、市場デリバティブまたは外国市場デリバティブ取引の委託の媒介
  3. 有価証券の募集・売出、私募の取り扱い。
  4. 投資顧問契約または投資一任契約

なお、金融商品仲介業者には、「顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行する義務」「名義貸しの禁止」「顧客から金銭・有価証券の預託を受けることの禁止」などの行為規制がある。

したがって、自ら顧客口座を持つことや金融商品取引等の契約当事者となることはできない。

また、投資顧問契約が為されている場合を除いて、一任勘定取引を行うことはできない。

こうした視点からFP業務を見てみると、FP単独でファイナンシャルプランを完成させることはできない、ということがよくわかると思う。

FP単独で行える業務は各専門分野の抽象的な領域に留まる。

ではまた。