
ある師との沈黙から学んだこと
人生の中で、ほんの数人——「この人と出会えたことが、自分の道に意味を与えてくれている」と思える存在がいます。
私にとって、その一人が、とある師匠でした。人生の節目で道を示してくれた、いわば「人生の師」と言える方です。
けれど、どれほど信頼している相手でも、ふとした瞬間にズレや摩擦は生まれます。
こちらの状況を理解してくれているはずなのに、そう感じてしまう要望。
それに応えられずためらったとき、空気がわずかに、不穏に変わるのを感じました。
そのとき、ふと思ったのです。
「期待は、いつか必ず裏切られるし、裏切りもする。」
■ すれ違いは、再び起こる
実は、師匠とは以前にも同じようなすれ違いがあり、そこから5年ほど、ほとんど連絡を取らない期間がありました。
年月を経てようやく再びつながりを取り戻したと思っていた矢先、また似たような状況が訪れたのです。
師も年を重ねられています。このまま、再び疎遠になってしまうのではないか。
今度こそ、今生の別れになってしまうのではないか。
そう考えると、胸の奥に静かな焦りと、切なさがよぎりました。
■ 期待は、信頼のかたちでもある
「わかってくれているはずだ」と思ってしまうのは、相手に対する信頼の裏返し。
そして、きっと相手も「応えてくれるはずだ」という思いを抱いていた。
どちらも、ある意味では正しく、そして不完全でした。
私の中の「わかってくれているはず」が、師にとっては「裏切られた」という感覚を呼んだのかもしれません。
同時に、私もまた、「応えられない自分」を責め、そして「こちらの状況を理解してくれなかった」と感じていた。
そのすべてが、期待の表裏に過ぎなかったのです。
■ 沈黙を貫くという誠実
言葉では、どこまでも取り繕えてしまいます。
本音のつもりで伝えても、どこかで自己正当化が入り込んでしまう。
だからこそ今は、あえて言葉を発しないという選択をしています。
沈黙のなかで関係を見守るという姿勢。
その姿勢そのものが、語らずとも相手に伝わる何かを含んでいるのだと信じています。
言葉よりも先に、沈黙のなかに誠実を込めることがあってもよいはずです。
■ あなたの中にある、手放したくない関係は?
人生のどこかで、私たちは皆、信頼する誰かとすれ違い、沈黙の時間を持つことがあります。
それはときに、関係の終わりに見えるかもしれません。
でも、本当は「終わり」ではなく、「変化」の始まりかもしれません。
もしあなたにも、過去に深い縁を感じた人がいるのなら、無理に言葉を交わすより、
その存在を静かに大切にする、という選択肢もあります。
■ 人間関係もまた、人生設計の一部
私は普段、ファイナンシャル・プランナーとして、人生やお金にまつわるご相談をお受けしています。
けれど、本当に大切な「人生設計」は、収支や資産だけでは語れません。
人との関係をどう紡ぐか、どう向き合うか。
その選択のひとつひとつも、人生の土台をつくる「設計」に含まれているのだと、
あらためて実感しています。
もし、いま大切な人との関係に悩んでいる方がいたら、
今回の体験が、何か静かなヒントになれば幸いです。